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企業史料関連論稿の紹介です。
[書誌情報]
著者:奥村 健治(おくむら けんじ)
タイトル:企業史としての記録保存と活用(研究発表,記録管理の社会的責任,<特集>2006年研究大会)
英文タイトル:Preservation and usage of records for a corporate history (Article presented at the annual meeting of the Society, Social responsibility of records management)
雑誌名:レコード・マネジメント : 記録管理学会誌
巻号:(52), 37-42, 2006-12-18
発行者:記録管理学会
Cinii Articles: http://ci.nii.ac.jp/naid/110005717847
(オープンアクセス。本文PDFへのリンクがあり、本文が読めます。)
[目次]
1. はじめに
2. キヤノン史アーカイブ室沿革
3. 史料の収集、保存、利用の基本
4. 業務方針
5. 今後の課題
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2006年5月20日に開催された2006年度記録管理学会研究大会における特別事例紹介を元にした論稿です。冒頭「はじめに」で、キヤノンの企業史アーカイブの基本姿勢は「身の丈にあったアーカイブ」であると宣言しています。その内容は
(1)「安定した運営のために、中長期計画及び日々の業務の判断基準や運用ルールの明確化が必要」
(2)「保存する情報や物品と、保存のためのルール整備が確実になされることで、はじめてその基盤ができ、初めてアーカイブが社内認知され、積極的な運営が可能になる」
(3)「過剰でもなければその逆でもない身の丈に合った品質とそれを実現する経営資源が必要」
とまとめられています。(37ページ)
今から8年前の発表ですが、企業アーカイブズの構築と運営の指針として、多くの企業にとっては今もって追求されるべき事項ではないでしょうか。
論稿本文では続いて、「キヤノン史アーカイブ室沿革」「史料の収集、保存、利用の基本」「業務方針」「今後の課題」が順に述べられています。実際に社内で利用されている(た)「製品管理台帳」、「毎月発行の月次年表」、「歴史的製品推薦リスト」は、社内記録のデータベースのフィールドを考えるのに有用でしょう。
イントラネットによる掲示板GCIP(Global Canon Information Plaza)で情報を社内公開→ストックした後、年表作成を行うというアーカイブ室における業務の流れが紹介されています。
2006年以降の変化を上げるならば、企業情報発信のアウトレットとしてインターネットの割合が高まったことがあるでしょう。その点を除くならば、8年前の論考ですが、企業内記録の保存と活用に関する考え方としてまったく色褪せた感じを受けません。
本文の最後に研究大会当日の質疑応答も収録されています。以下、長くなりますが、引用します。(42ページ)
Q1:
「組織の名称をキヤノン史編集室からキヤノン史アーカイブ室に変えたというのはすばらしいと思います。社史編纂室だとその度に組織がなくなります。その点でアーカイブ室にするというアイデアはすばらしく、他の会社でも同じようにしたらよいと思います。それから保存のコストに苦慮されていることです。これは記録管理学会の皆様に考えていただきたいことですが、企業会計は収入と支出が計上され、保存するコストばかりが問題になり結局捨てろということになる。保存しておくことの会計上のメリットができていないのではないか。数年前から環境会計という概念ができ認められてきた。そのような考え方をアーカイブや記録管理に応用できないのでしょうか?」
A1:
「名和先生の著作権の話でロビー活動が必要だという話がありましたが、役員をはじめ社内に対して、アーカイブの大切さを平易に訴求することが効果を生むと思います。アーカイブに限ることではないのですが、コストのみがかかっているというのではなく、過去の資産を再利用して利益を生んでいることを示すため、アーカイブがどれ位利益に寄与したかというような試みをしてみたことはあります。」(以上、引用)
「役員をはじめ社内に対して、アーカイブの大切さを平易に訴求することが効果を生む」点は引き続き各企業のアーカイブズ担当者が進めていくべき課題だと思います。一方、この8年間での変化には、財務情報のみならず、非財務情報(環境、社会、ガバナンス=いわゆるESG)を企業報告に取り込んでいく動きが目立ってきたことがあげられます。サステナビリティレポート、環境レポート、社会貢献レポートなどです。非財務情報を企業報告に取り入れていくにあたり、アーカイブズや記録管理が何らかの貢献を果たすことができるのではないか、そんなことを考えています。
