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企業アーカイブズ、ビジネスアーカイブズに関心を持つ方々、そして関係者にとって必読の文献です。
本稿は2013年11月17日に盛岡で開催された国文学研究資料館・いわて高等教育コンソーシアム講演会 「なぜアーカイブズは必要なのか─文書保存の意義と実態」での講演「ビジネス・アーカイブズと地域社会」をもとにしたもので、国文学研究資料館2013年度アーカイブズ・カレッジ(短期)の修了論文として受理されたものに加筆・訂正を加えたものです。掲載誌は人間文化研究機構国文学研究資料館編『国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇』11号(2015年3月刊)。本文はこちらからリンク。
著者は長らく和菓子製造・販売の老舗虎屋の企業アーカイブズ「虎屋文庫」で企業資料の管理と活用に携わってこられた青木直己さん(現在は企業史料協議会監事)です。これまで、近世史、企業史、食文化史等に関して多くの論文、著書を刊行されています。
目次は下記の通りです。
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本稿の目的
1.日本におけるビジネス・アーカイブズの概況
2.企業における現用文書および記録史料保存の契機と目的
(1)会社史とビジネス・アーカイブズ
(2)社会的な存在としての企業とビジネス・アーカイブズ
─企業の社会的責任─
3.地域史とビジネス・アーカイブズ
(1)近代東京府における電力供給と鉄道事業
(2)東京府武蔵野地域における電力供給と地域社会
おわりに
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冒頭の「本稿の目的」には、「日本におけるビジネス・アーカイブズの置かれている状況について簡単に触れ、その利用について、特に会社史(以下、社史と略記)と地域史の関わりを中心に述べる」(96ページ)とあります。それは「ビジネス・アーカイブズが、その他のアーカイブズに比べて利用が極めて限定的である状況下、利用の方法を少しでも広げることを目的としているからである」とその意図を明らかにして、本論に進んでいます。
「1.日本におけるビジネス・アーカイブズの概況」では、現代社会における企業の影響力の大きさにも関わらず、企業アーカイブズの整備は公的機関のアーカイブズに比べて遅れている、としたうえで、比較的アーカイブズが整備されている例を紹介しています。三井文庫、住友史料館、三菱経済研究所付属三菱史料館といった戦前の三大財閥の流れをくむ企業グループのアーカイブズや花王、キリンビール、清水建設、明治安田生命相互会社、トヨタ自動車といった近代に入って創業した会社、そして日本の特徴として伝統産業でアーカイブズの管理・運用が進んでいることが指摘されています。(96~98ページ)
「2.企業における現用文書および記録史料保存の契機と目的」は本稿で、私がもっとも注目した部分です。ここでは現在の日本において企業が記録や文書を保存する契機・目的として、筆者は11項目を上げて、それぞれ実際に接した事例を基に説明を加えています。(98~99ページ)
①税務上の法定年限(申告・決算書類など)保存によるもの
②法務上の保存義務
③商標保護
④訴訟対策
⑤国際標準規格
⑥経営の参考資料
⑦経営資源
⑧社史編纂
⑨なんとなく
⑩残さない
⑪残せない
⑪の「残せない」とは何か? 筆者によると、ファイリングシステムの導入や社屋移転は記録や文書の保存を阻むものであり、それはすなわち「残せない」ことであると明快に指摘しています。(99ページ)
「2.(1)会社史とビジネス・アーカイブズ」では、社史とアーカイブズの「古くて新しい問題」を論じています。現状では「アーカイブズは社史編纂のための資料である」と認識されることもまだまだ多いのですが、近年の企業史料協議会の各種活動や渋沢栄一記念財団の取り組みなどを通じて、アーカイブズは決して社史編纂だけのために存在するわけではない、という認識も関係者の間で広まってきていることが述べられています。また、社史編纂が経営層からのトップダウンの全社的事業として行われることが多いことからすると、アーカイブズの基盤構築にとって、社史編纂を目的とした記録史料収集が果たす大きな役割も示唆されています。(99~101ページ)
「2.(2)社会的な存在としての企業とビジネス・アーカイブズ─企業の社会的責任─」ではアーカイブズを経営のための資源とのみ位置付けるだけではなく、社会に対する「説明責任」を果たすため、「企業の社会的責任」を担保するものとしての存在意義も見落としてはいけないと主張しています。それは、筆者が「1.日本におけるビジネス・アーカイブズの概況」で示したように(日本における企業数は433万8153社、法人格を持った組織としては日本最多)、企業の社会的影響力の大きさから導かれるものと言えます。(101~102ページ)
「3.地域史とビジネス・アーカイブズ」ではビジネス・アーカイブズの公開が進んでいない中で、「ビジネス・アーカイブズの利用のツール」として「社史」を利用する意義を探っています。そのための事例として、東京電力の社史である『関東の電気事業と東京電力:電気事業の創始から東京電力50年への軌跡』(2002年)、『京王帝都電鉄三十年史』(1978年)等を用いて、地域社会の電化の状況といった社会史を解明する上での社史のもつ資料的意義を説いています。(102~105ページ)
「おわりに」では本稿を①企業とアーカイブズ、②企業と地域との関係、③社史の活用、とい三つの点からまとめています。③では社史の利用が経営史的研究に偏重しがちであるが、地域研究や関連業界からの利用が増加することによって、「社史の新しい姿が生まれる可能性を生」み、「社史の社会的な価値を高めることにつながる」と指摘しています。(105~106ページ)
最後に、わたしの感想をひと言で述べるならば、本稿は企業アーカイブズの現場で長年働かれた経験をベースに、近世史・アーカイブズ学研究者としての確固とした視点から、日本のビジネス・アーカイブズの現状と、その利用のためのツールとしての社史について考察した、極めて重要な論文です。
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[書誌情報]
タイトル:ビジネス・アーカイブズの現状と利用 : 社史から地域を知る
著者:青木 直己
出版年:2015年3月
掲載誌名:国文学研究資料館紀要. アーカイブズ研究篇 / 人間文化研究機構国文学研究資料館 編
掲載号:11
掲載ページ:95-106
ndlサーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I026272930-00
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