情報科学技術協会INFOSTA 会誌「情報の科学と技術」2015年12月号に同協会主催の新日鐵住金株式会社君津製鐵所と技術開発本部研究所図書館(TIC)見学会参加記が収録されています。
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《見学会報告》
「合併による研究所図書室統合の現場を学ぶ:
新日鐵住金株式会社君津製鐵所と技術開発本部研究所図書館(TIC)見学会に参加して」
松崎裕子
2015年10月6日開催の新日鐵住金株式会社君津製鐵所と同社技術開発本部図書館(Technical Information Center:TIC)見学会に参加した。本稿では同製鐵所概要について簡単に述べた後、見学会の模様を報告する。
■君津製鐵所について
君津製鐵所は旧八幡製鐵株式会社君津製鐵所として1965年に創業。1970年3月31日、八幡製鐵と富士製鐵株式会社の合併によって、新日本製鐵株式会社君津製鐵所となった。2012年10月1日には新日本製鐵が住友金属株式会社と合併したことによって、新日鐵住金株式会社君津製鐵所と名称変更し、今日に至っている。
東京湾岸に立地する広大な敷地は東京ドーム約220個分の広さがある、という説明であった。同製鐵所の敷地は大きくは二つの部分に分かれ、今回集合場所となった本館・君津製鐵所ビジネスセンターのある東側は木更津市、製造部門の各種工場が立ち並ぶ西側の地区は君津市に位置する。東側の地区と西側の地区の間に東製品岸壁が、西側の地区と富津市に位置する技術開発本部のエリアの間に西製品岸壁が設置されており、大型船によって製品が輸出できるように設計されている。君津製鐵所では関連会社も含めて15,000人の社員が4組3交代で働いているとのことである。
広大な敷地内の移動はマイクロバスを利用した。また、最寄りのJR木更津駅から本館・ビジネスセンターのある東側の地区までの距離は約5km、タクシーで10数分である。
■工場見学
工場見学は君津製鐵所の広報担当の方が案内してくださった。最初に自動車、家電、建材、その他に利用される熱延鋼板の製造工程を見学した。熱延鋼板は製鋼工場で造られたスラブを加熱炉で加熱し、粗圧延機と仕上げ圧延機で帯状に連続で長く圧延したもので、最終的には運搬しやすいようにコイル状に巻き取った熱延コイルになる。1600℃に焼けた厚さ24cmの鉄板が、500m以上の圧延機を通り、1cm ほどの薄さに延ばされていくのを間近に見た。工場内は鉄の熱気と水蒸気、鉄がベルトコンベア上を流れていく音が充満し、迫力があった。全ラインがコンピュータ制御されており、鉄板の厚さも顧客の要望に合わせてカスタマイズすると説明していただいた。
次にバスを利用して高炉が立ち並ぶ製銑エリアに移動し、現在稼働中の3基の高炉のうち一番新しい第4高炉の近くで、高炉の下から銑鉄と不純物(スラグ)が運び出される様子の説明を受けた。構内は写真撮影禁止であるが、このコーナーは撮影可であった。
その後プラスチックのリサイクル工場を見学し、最後に本館に戻り広報ビデオを見て製鐵所見学を終えた。
■技術開発本部研究所図書館(TIC)見学
君津製鐵所ビジネスセンター社員食堂での昼食後、バスで富津市にある技術開発本部に移動し、午後はTICを見学した。
最初にTICセンター長の山口様より技術開発本部(Research & Engineering Center:RE センター)とTICの沿革についての説明を受けた。それによると、TICは新日本製鐵時代の1991年にRE センターと同時に発足したものである。1991年当時、新日鐵には神奈川県川崎市に第1技術研究所(基礎)、同相模原市に第2技術研究所(製品)、福岡県北九州市に第3技術研究所(生産)の三つの研究所があり、順次移転し統合させたものである。北九州市八幡には設備技術センターもあり、こちらの一部も併せて富津市の現在地に移ってきた。最後の部隊が現在地に移ったのが1999年。この過程で四つの研究拠点それぞれが持っていた四カ所の図書室の蔵書(図書・雑誌)も、1990年から1999年にかけて順次、富津のTICに統合した。この時の統合では重複本と雑誌の処分が課題で、これらは国内と中国の大学、神奈川県資料室研究会(神資研)のデポジットライブラリー、研究者へ寄贈の他、廃棄を行ったという。
さらに、2012年に合併した住友金属は兵庫県尼崎市に尼崎研究開発センターと茨城県神栖市に波崎研究開発センターの二つの研究開発拠点を持ち、それぞれが図書室を備えていたので、新日鐵住金としては現在三つの研究開発拠点(富津、尼崎、波崎)に三つの図書室を持っていることになる。2年前より取り組んだ富津と尼崎の図書システムの統合は最近完了し、蔵書(単行本)は富津の約6万冊と尼崎の約4万冊を併せて、約10万冊になった。
TICは「研究所の図書館」としての業務をミッションの中核に据えており、公開資料は必要な情報をタイムリー、スピーディーに提供する一方、研究月報や報告書類などの一般に対する非公開資料は適切に保管管理を行い、全社に向けて公開することがそのミッションの具体化であるという。さらに「場」を提供すること、すなわち「情報と人との対話の場」「思索としての場」の提供もミッションの一つと考えており、レファレンスの充実・研究者が気軽に相談できる雰囲気作りにも意を注いでいるとのことであった。室内には写真同好会の方々による作品が各所に掛けられており、親しみやすい雰囲気作りに役立っていた。
TICの情報プラットフォーム「情報源あさり君」は千葉県富津市の名物「あさり貝」にちなんだという命名の由来も面白く、親しみやすさ志向の表れにも感じられた。発足当初より電子図書館化を推進しており、JDreamIII、その他工学分野、金属分野のデータベースを利用しているほか、電子ジャーナルも導入している。
2012年の新日鐵と住金の合併では、10月1日よりお互いのシステムの相互利用を開始し、2015年9月28日から互いのデータを統合した新蔵書検索システムの稼働を開始した。この間、2012 年7 月から18回にわたって実務者交流会で情報交換を行ったという。蔵書数(単行本)は、TICが約6万冊、尼崎が約21,000冊、波崎が約5,000冊、本社に5,000冊、計91,000冊。新日鐵ではUDC分類を用い、住金ではJICSTに沿った独自分類であった。統合にあたっては分類を統一することは行わず、検索でカバーすることにした。雑誌は書誌データを統合して、互いの所蔵データに繋いで運用している。外国雑誌は電子ジャーナルが多い。
TICは24時間365日オープンしており、貸し出しも自動化されている。1991年以来、REセンターの研究者向けに講習会を随時行っている。講習会には集合講習会、個別講習会、さらに端末実習集合講習というメニューを揃えて、利用者のニーズに応えている。そのほか、イントラネットによる情報発信、各部署に配置されている図書委員に対してメールで情報の送信を行っているということであった。
技報用の特注の棚など普段目にすることのない什器やスペースが、筆者には非常に興味深かった。
筆者が働く渋沢栄一記念財団では「渋沢社史データベース」を公開するとともに、社史作成の基になった社内報等企業資料の管理と利活用の振興を目的とする「企業史料プロジェクト」を進めており、TICの広報誌の棚に置かれた資料に関してたいへん興味を引かれた。質問したところ、TICには社内各所から広報誌が集まり、製本は行わないが紐で結束して保管に努め、廃棄は行わないということである。ただし、TIC はあくまで広報誌を閲覧に供することが業務であり、それらの保管保存は本社の担当である。さらに、PDFで作ったボーンデジタルな報告書など非公開資料は、現在は紙に打ち出し、上製本して保存しているという。筆者が専門とするアーカイブズでの「電子記録の長期保管」に関わる問題でもあり、この課題への一つの対処方法と筆者は理解した。
なおTICは新日鐵住金グループの日鉄住金総研株式会社が新日鐵住金から業務委託を受けており、日鉄住金総研内の知的財産事業部東日本知的財産推進部がTICの運営に当たっている。また、富津の技術開発本部は約70万㎡の広さで、これは東京ドーム15個分(完工は1991年9月)ということである。
見学会の質疑応答の最後にTICのみなさんが、日ごろ心掛けていることを分かち合ってくださった。「利用者に対しいつも笑顔で積極的に援助する。図書館機能をより発揮するためには、図書館員と研究者の間のコミュニケーションが何より大切」というお話であった。
今日、民間企業のみならず地方自治体なども含めて、組織の合併・再編は頻繁に起こりうる。それに対して、図書館機能や所蔵資料をどのように統合し、利用者に奉仕していくのかは誠に大きな問題であると思う。今回このような貴重な機会を提供していただいたことに対し、新日鐵住金TICのみなさま、またINFOSTAのみなさまに心より感謝申し上げて、本稿の結びとしたい。
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By takato marui from Osaka, Japan [CC BY-SA 2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)%5D, via Wikimedia Commons
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