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日別アーカイブ: 2015年9月8日

ポール・コンウェイによる『21世紀のアーカイブズを思い描く』(アン・ギリランド著、2014年)書評(2015年)

08 火曜日 9月 2015

Posted by archivesstudio in Uncategorized

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This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.
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7月10日に開催された企業史料協議会主催の資料管理セミナーで司会をいたしました。テーマは「資料活用のための目録作成のヒント~資生堂企業資料館での資料整理を事例として~」でした。アーカイブズ資料の記述・目録の国際標準(ISAD(G)、オーストラリア・シリーズ・システム)の基本的なお話を東京大学文書館の森本祥子先生に、国際標準を用いて資生堂企業資料館所蔵資料の目録作成(記述)を行った実践例を学習院大学大学院アーカイブズ学専攻博士後期課程の清水ふさ子さんにご講演いただきました。

その後、近年の記述標準の動向について勉強しようと思い、積読のままであった、アン・J・ギリランド『21世紀のアーカイブズを思い描く』を読み始めたところ、米国アーキビスト協会(SAA)の会誌「アメリカン・アーキビスト」に同書の書評が掲載されました。評者はミシガン大学情報学大学院のポール・コンウェイ Paul Conway氏。分量は3ページです。まずはこの書評で『21世紀のアーカイブズを思い描く』の概要を押さえておくとよいかな、と思いました。

Paul Conway (2015) Conceptualizing 21st-Century Archives. The American Archivist: Spring/Summer 2015, Vol. 78, No. 1, pp. 262-265.
doi: http://dx.doi.org/10.17723/0360-9081.78.1.262

http://americanarchivist.org/doi/abs/10.17723/0360-9081.78.1.262
http://americanarchivist.org/doi/full/10.17723/0360-9081.78.1.262
http://americanarchivist.org/doi/pdf/10.17723/0360-9081.78.1.262

※「アメリカン・アーキビスト」誌はオープン・アクセス・ジャーナルです。ただし最新号へのアクセスは会員限定。年2回発行なので、6カ月間は非会員は紙の雑誌を利用することになります。
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《ポール・コンウェイによるアン・ギリランド『21世紀のアーカイブズを思い描く』レビューの概要》

評者(コンウェイ)はまず次のような言葉で始めます。

「革命の渦中にあって、革命に感情的・知的な距離をとり続けるのは、心乱れることである」

‘It is mind-boggling to maintain emotional and intellectual distance while living through a revolution.’(262頁)

ここで言う革命とは、情報哲学者ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi, ローマ出身、オックスフォード大学情報哲学・倫理学教授)が主張する第4の革命=情報革命を指しています。評者はフロリディの議論の説明のために、次の言葉を引用しています。

‘(humans) are “informationally embodied organisms, mutually connected and embedded in an informational environment, which we share with both natural and artificial agents similar to us in many respects.”‘(262頁)

「人間は情報が肉体の形をとった生命体であり、情報環境のなかで互いにつながり合い、互いが互いに埋め込まれたものである。そしてわたしたちは、情報環境というものを、多くの点で私たちに似た、自然のエージェントならびに人工的なエージェントと分かち合っている」

評者によると、このような環境の中、すでに21世紀も15年が過ぎようとしているにもかかわらず、アーキビストはまだこの革命と折り合いをつけるに至っていないし、あえてそれに立ち向かう同業者がいるならば、彼女/彼を抱擁する(讃える)必要がある、と言っています。もちろんその先駆者の一人がアン・ギリランドです。

『21世紀のアーカイブズを思い描く』はこれまでのギリランドの重要な著作に、米国外で彼女と同じように先駆的に現代のアーカイブズの課題に取り組む研究者と共同研究を数多く行った成果を取り入れたものであると評者コンウェイは評しています。アーカイブズに関わる考え方の変化を方向づける彼女のアプローチは、高度に選択的で、特定の概念的枠組みよりは、共同研究から得られた知見によると言います。(彼女はICAの中のアーカイブズ学教育専門部会SPAに深く関わるとともに、オーストラリアをはじめとする諸外国の研究者と数多くの共同研究を積み重ねており、この点で米国では他に比肩する研究者はいないのではないかと筆者=松崎も考えております。)本書では、アーカイブズの記述実務、電子記録とレコードキーピング、デジタルキュレーションの可能性を示すエビデンスを提供するけれども、将来を占うという誘惑は退けているので、情報革命を牽引するための助言を求めて本書を手に取る読者は失望するかもしれない、とも評者は語っています。

著者(ギリランド)はUCLAで研究者としてのキャリアを積み上げ、同大学情報学部学部長を務めるほか、「証拠(エビデンス)としての情報のためのセンター」Center for Information as Evidenceを立ち上げ、現在は正教授として大学院修士・博士課程の教育において並外れた実績を残している、とあります。前の段落にも出てきましたが、研究スタイルとしては、共同研究に力を注ぎ、国際的な広い視野を持ち、例えばオーストラリアのスー・マッケミッシュとの長い実りある共同研究、アーカイブズ記録の真正性に関するインターパレスInterPARESへの深い関与、エリザベス・ヤケルとともにアーカイブズ教育とリサーチ・インスティテュートの運営でリーダーシップを発揮してきたことなどを評者は上げています。

さらに、本書は20世紀におけるアーカイブズ分野の歴史が21世紀のアーキビストに提供すべき教訓、を引き出す試みであるという、序章における著者の弁を紹介し、2000年以降の彼女の研究は、アーカイブズに関する思考のコアな部分が、どのような継続的な意義・価値をデジタル世界に対して持つのか、を明確にすることである、とまとめています。さらに、21世紀のアーカイブズを考える上で議論の中心となる7つの構成概念を紹介しています。それは、postcustodial thinking(脱保管思考)、archivalization、communities of memory(記憶の共同体)、community archives(コミュニティ・アーカイブズ)、cocreatorship(共同制作)、digital repatriation(デジタル返還)、archival multiverse(アーカイブズの多元性)です。著者は序章でこれらの概念を定義するとともに、参照すべき文献を提示しているということです。

しかしながら、本書は上の7つの構成概念から構成されているのではなく、ポストモダン世界における脱保管アーカイブズ postcustodial archivesというコンテクストを明らかにしたうえで、アーカイブズの本質(第2、3章)、記述実務(第4、5章)、電子記録(第6、7章)という2章を一つのペアとして構成されている点を示します。第2、3章では、今日のICT革命の中でのアーカイブズの考え方、20世紀前半におけるドキュメンテーション運動の意義に関する歴史的扱いを議論し、約1世紀前に打ち立てられたアーカイブズ的見方、またその見方のある部分は依然として有効であるという著者の立ち位置を評者は示しています。

第4章と5章は20世紀半ば以降現れたアーカイブズの記述実務のサーベイならびに、過去30年にわたるデジタル技術のイノベーションを通じて、アーキビストたちはそれらの実務を適用してきたのかに関して議論。第6章と7章ではデジタル・レコードキーピングと電子記録管理に関する深い学識に焦点を当てています。この部分はギリランドが2005年にAnnual Review of Information Science and Technologyのために準備した文献レビューを基にしたもので、本書ではこれをアップデートして、これからの発展への指針を提供するものになっています。電子記録管理における研究プロジェクトに関する大規模な表は、過去20年間のさまざまな試みを網羅したものであると評者は指摘しています。

第8章と9章は最近のデジタル技術をめぐる議論にあてられています。評者は、ここにおいて著者は議論の対象を広くしたために、逆に分析の深さを犠牲にしている、と厳しい評価を与えています。パーソナル・アーカイビング、ソーシャル・メディア、デジタル・フォレンジクス、クラウド・コンピューティングなど身近な話題を扱っているのですが、これらは一つ一つが章レベルの扱いを受けるに相当する内容であり、議論が深く掘り下げられていない、というわけです。同様に、レコードキーピング・モデルに関する議論も大雑把であり、著者の考える長期的な持続可能性に関する著作への橋渡しとしてはout of place(場違い)と評価しています。第10章はデジタル・スチュワードシップ、プリザベーション、キュレーションといったトピックを通じて、有益な議論を展開しているという好意的な反応を評者は示しています。さらに、この章での著者の貢献として高く評価されているのが、「時代を超えたアーカイブズの原則」と「非常に幅広い国内的国際的情報コミュニケーション技術」とを結びつけたこと、です。ただし、ここで評者は、アーカイブズの根本原則が世界のサイバー・インフラの中に埋め込まれていくにつれて、メタデータとデジタル記録の分野でアーキビストが確固として(かつて)行使していた影響力に対して、現在は逆にアーキビストが受け身に対応する立場にどんどん追いやられていくのは皮肉なことである、と述べているのが印象的です。

最後の章、第11章は「結論」のかたちをとっています。そして評者は、ここで著者はアーカイブズの実務家に対して重大な挑戦を突きつけているといいます。それは、著者が「アーカイブズの考え方と実務を概念化する=思い描く能力こそ、21世紀におけるアーカイブズの仕事の本質的部分である」と述べているからです。しかしながら、現実には今日アーカイブズ記録はビジネス(業務)にとって重要なものでなくなっており、にもかかわらずアーキビストとは記録recordの専門家として、その本質は証拠evidenceに関わるものであると著者が認識している点を指摘しています。さらに、著者は(そして評者も)また、デジタルでグローバルな世界においては、アーカイブズの原則を定義して実行するという権能をアーキビストは失ってしまった困難な状況にも気づいています。

そして、本書の最後で著者は、(過去1世紀にわたる歩みをいったん忘れて)もしアーキビストが今日の情報革命の真っただ中でゼロからスタートするならば、アーカイブズの原則はどのように見えるだろう、という大きな問いを発しています。これに対して、評者は次のように言います。

‘…the real answer to her question may lie a hundred years hence, when archivits will know whether their ideas changed the world or the fourth revolution rendered them unrecognizable.’(264頁)

「彼女の問いへの真の答えは今から100年後にあるだろう。その時、アーキビストは自分たちの考えが世界を変えたのか、それとも第4の革命がアーキビストの存在を消し去ってしまったのかを知る」

(書評概要はここまで)
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わたしが注目したのは最後の部分です。アーカイブズ、レコードマネジメント専門職が専門職として確立しておらず、そのような職務が職務として存在することがほとんど知られていない日本の状況は、「今日の情報革命の真っただ中でゼロからスタートする」ようなものではないでしょうか・・・。

過去1世紀にわたって国際的に発展してきたアーカイブズ、レコードマネジメントの原則のエッセンスを摂取・消化しつつ、他方で情報革命への参加の仕方(あるいは情報革命からの距離の取り方)を考えながら走り続ける、というのがわたしたちの置かれた状況であることを理解させてくれる書評でした。

書評末尾に下記の2つの文献が参考文献に上がっています。

(1)
ルチアーノ・フロリディ『第四の革命:インフォスフィア(世界規模の情報通信ネットワーク)は人間の現実をどのように変えつつあるのか』(オックスフォード大学出版、2014年)
Luciano Floridi, The Fourth Revolution: How the Infosphere Is Reshaping Human Reality (Oxford: Oxford University Press, 2014).
http://www.amazon.co.jp/Fourth-Revolution-Infosphere-Reshaping-Reality-ebook/dp/B00KB1BRSM/ref=sr_1_3?s=english-books&ie=UTF8&qid=1441588013&sr=1-3&keywords=Luciano+Floridi (Amazon Kindle版のページ)

(2)
E・ジェラルド・ハム「脱保管時代のためのアーカイブズの戦略」(『アメリカン・アーキビスト』44号、1981年)
E. Gerald Ham, “Archival Strategies for the Post-Custodial Era,” The American Archivst 44 (Summer 1981): 207-216.
http://americanarchivist.org/doi/pdf/10.17723/aarc.44.3.6228121p01m8k376 (PDF)
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【書誌情報】

タイトル:21世紀のアーカイブズを思い描く
Conceptualizing 21st-Century Archives

著者:アン・J・ギリランド
Anne J. Gilliland

(PDF版)
http://saa.archivists.org/store/conceptualizing-21st-century-archives-pdf/3834/
Published by Society of American Archivists (2014)
336 pp | PDF
ISBN: 978-1-931666-69-5

(Print版)
http://saa.archivists.org/store/conceptualizing-21st-century-archives-print/3833/
Published by Society of American Archivists (2014)
336 pp | Soft Cover
ISBN: 1-931666-68-7

【目次】
http://saa.archivists.org/4DCGI/store/PDFs/TOCs/BOOKSAA-0590.pdf (原文)

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