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カテゴリーアーカイブ: JSAI

「原課」ということば(2020年7月)

12 日曜日 7月 2020

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公文書, 公文書管理

アーカイブズ、アーカイブズ学で使われる基本的な概念・用語の話のなかで、「出所」(provenance)と「原課」の違いは何か、という質問を受けました。

「出所」とは、provenanceの翻訳であり、国際アーカイブズ評議会アーカイブズ教育部会が編纂した多言語によるアーカイブズ用語集の日本語版によると、

「provenance 記録センター又はアーカイブズ機関に移管される以前に、業務遂行の中で記録を作成、蓄積/維持し、使用した組織又は個人。」

です。「その文書のoriginはどこか、そのように考えてね」という説明も行いました。別の回の公文書管理に関する話の中で、現用、非現用、公文書館への「移管」のところで、日本では「原課」という言葉もよく使われるという話をしたところ、上のような質問が出た次第です。

「原課」–これは、日本国語大辞典、大漢和辞典にも、地方自治百科大辞典にもない。Wikipedia日本語版で「官房」を引くと、次のような説明があります。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%98%E6%88%BF

「なお、官房を除く各局、各部の建制順上の筆頭にある課(筆頭課)は、各局における人事・文書・会計等の総括管理を掌っており、各局における官房の機能を有する。官房、筆頭課に対して、実際の行政事務を掌る各局、各課は「原局」(げんきょく)、「原課」(げんか)と称される。」
(この部分出典の注なし)

あくまで「官房」と対になった呼称のようです。「官房学」はドイツのカメラールヴィッセンシャフトから。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%98%E6%88%BF%E5%AD%A6

「官房」は国家行政組織法、内閣府設置法には出現する一方、原局、原課はともにゼロ。公文書管理法には官房も原課も出てきません。

大森彌『官のシステム』(東大出版会、2006)、東田親司『現代行政と行政改革』(芦書房、2004年)など行政学の文献ではどのように説明されているのか確認してみたところ、後者が第6章「府省内組織とその役割」のなかの「中二階ポストと課レベル組織−課レベルポスト」の項で次のように述べています。

「同じ本省の課長でも筆頭は官房課長であり、次に局の筆頭課長、その次に局の原課の課長という順番で年次的にも配分されている。I種採用者の昇進ポストも最初に課長になるのは原局課長で、これを2〜3箇所勤めて将来性を見込まれれば局の筆頭課長となりさらに官房課長になるコースを歩む。他方、原局課長時代の評価が不十分等で第1グループに入らない場合には、出先機関であるブロック機関の部長や府県単位機関の長に転出していくケースが多い。」(59ページ)

著者自身は行政管理庁に入庁したあと、総務庁行政監察局長を経て退官、本書執筆時点では大東文化大教授。これ以前のページに「原局」「原課」の説明はないので、官僚にとってはあまりにも当たり前で、説明するようなものではないのかもしれません。Wikipediaに典拠資料がないのもこのあたりに由来するのでしょう。

一方、Ciniiアーティクルで「原課」を全文検索すると、203件ヒットします(2020年7月12日)。

すべてがアーカイブズ学関係ではありませんが、地方自治体における文書管理関係の論文がいくつかあります(嶋田 典人「地域記録の作成・保存・利活用 : 法整備と組織体制・運営」など)。ほかに上川陽子元法務大臣の講演録にも1箇所登場します。

国の機関に勤務している人に聞いたところ、「原課」とは「官房」(あるいは「総務」など省庁内の秘書的な部門)以外を指す言葉で、省庁の職員なら100%知っているだろうということでした。

そういうわけで、国レベルの行政機関と地方公共団体では「原課」という言葉の意味は異なっているようです。そこで、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)が発足1976年(昭和51年)から委員会体制に移行する前年の1994年(平成6年)度まで同協議会の事務局を担当した埼玉県立文書館の主任専門員の太田富康氏(館内で全史料協事務局を担当したのは1989年(平成1年)度から1993年(平成5年度)、同氏は今年度のアーキビスト認証委員会委員)にうかがってみました。

太田氏は今年3月で通算37年間の埼玉県職員生活を送られています。以下のように説明をうけました。

—–

「原課は「当該文書等に係る事案を所掌する課及び所」という意味で使い、それで混乱なく通用してきました。それは県での仕事でも全史料協等のアーカイブズ界の場においても、です。たとえば、当館は永年保存文書を現用のまま「管理委任」という形で預かっています。

文書の流れは、原課→文書課→文書館、です。

それらの文書のうち、情報公開条例上非公開となっているものを見たい、と言われたときに「その判断、権限は原課にあります」とか「原課に聞いて下さい」というように使います。あくまで「原課」は文書課でも部局の筆頭課でもなく文書を発生させた元の課を指して使ってきました。

ただ、これはいわゆる「俗語」と思っており(埼玉県の法規DBで検索しても出てきません)、正式な場や文章、講師などでは「主務課」を使ってきました。

全国的にこの用語がどれだけ普遍的かは確認したことはありませんが、埼玉県の文書規則ではそのように定義があり(前述の「原課」の意味はその引用です)、埼玉県地域史料保存活用連絡協議会(埼史協)の研究会でも市町村の人から同じ使い方と教えて貰い、埼史協の文献でもこの「主務課」を使いました。

なお、「主管課」というのは、埼玉県の行政組織規則では各部の筆頭課(とりまとめ課)をいいます。企画財政部では企画総務課、福祉部では福祉政策課などがそうです。

ただ、私は「文書主管課」「文書管理主管課」というような使い方もよくしていますし、よく使われていると思います。

「部」という組織のとりまとめではないですが、文書事務という業務の県(知事部局)全体のとりまとめ課、すなわち、例規で言えば、公文書管理法や文書管理規則を主管する課、というような意味合いで、です。

——–

とのことでした。太田氏のご説明にあるように、これは「俗語」なのでしょう。アーカイブズや公文書管理の話に初めて接した人、とくに役所外の人々には「原課」というのはよくわからない、疑問に思う言葉の一つかもしれません。じっさい自分がそのような質問を受けたのでここに記録しておきたいと思いました。

なお、「出所」に関しても、その意味合いについていろいろご教示いただいたので、別の記事として後ほどまとめられたら、と思っています。

【参考】

Multilingual Archival Terminology
The section on Archival Education (SAE) | 13 March 2012
International Council on Archives
https://www.ica.org/en/online-resource-centre/multilingual-archival-terminology

Multilingual Archival Terminology
http://www.ciscra.org/mat/

日本語
Multilingual Archival Terminology
http://www.ciscra.org/mat/mat/termlist/l/Japanese

「出所」
Multilingual Archival Terminology
http://www.ciscra.org/mat/mat/term/4007

全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)
http://www.jsai.jp/

新井浩文「埼玉県地域史料保存活用連絡協議会(埼史協)40年のあゆみ」
http://www.archives.go.jp/publication/archives/no057/4156

埼玉県立文書館「埼玉県地域史料保存活用連絡協議会(埼史協)」
https://monjo.spec.ed.jp/%E5%9F%BC%E7%8E%89%E7%9C%8C%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%8F%B2%E6%96%99%E4%BF%9D%E5%AD%98%E6%B4%BB%E7%94%A8%E9%80%A3%E7%B5%A1%E5%8D%94%E8%AD%B0%E4%BC%9A

国立公文書館つくば分館にて(2020年6月24日)

同上

同上

 

大仙市アーカイブズ開館記念行事(2017.5.3) 参加記

11 木曜日 5月 2017

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アーカイブズ, 秋田, 自治体, 大仙, 東北

5月3日(2017 年)、秋田県大仙市で開催された大仙市アーカイブズ開館記念行事に参加いたしました。当日記念講演に登壇された全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の定兼学会長から参加記執筆の依頼を受けました。同協議会サイトに本日掲載されたとの連絡をいただきました。ご笑覧いただければ幸いです。

クリックしてb20170510.pdf.pdfにアクセス

全史料協サイト・トップページはこちら
http://www.jsai.jp/

大仙市アーカイブズのページ
http://www.city.daisen.akita.jp/docs/2014040200045/

 

当日撮影した画像をいくつか掲載いたします。

『レコード・マネジメント・ハンドブック : 記録管理・アーカイブズ管理のための』紹介・書評

28 金曜日 4月 2017

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出版後間もなくご紹介いただいた方々ありがとうございました。その後2016年度末に少なくとも3本の書評が公刊されました。いずれも丁寧にお読みいただいたことが伝わってくるもので本当にありがたく感じています。ある程度長い分量の書評記事では、批判や問題提起といったものも提示されて、今後この分野での研究や執筆を進めて行くうえで、たいへん参考になるものと思われます。以下箇条書きですが、いくつかメモしておきます。

・オリジナルの英語原文と対象しながら読んでくださった富永さんからは、本書は「標準的教科書というよりは議論の書」であり、オリジナル版も翻訳版もよみずらい。その理由は標準的な考え方と原著者独自の考え方を弁別しながら読まねばならない点がひとつ。もうひとつは原著者の実務経験を反映した「詳細なガイダンスと、より抽象度の高い議論とが本文中に混然一体となっている点」(富永、80ページ)

・実務の「ハンドブック」であるならば、やはり原語をカタカナ表記した用語に置き換えるのではなく、日本の現場で用いられている、「自分たちが使用している用語への『再翻訳』表現が必要」(秋山、69ページ)

・本書では「現秩序を保持するという原則」は紙の世界のレコードに関するものという立場だが、コンテクストを把握するうえでこの原則は重要であり、レコード形式の如何を問わないのではないか。「最終的には個別に判断することになる」のではないか。(渡邊、89ページ)

・「証拠的価値」を「情報的価値」「情報提供用ドキュメント」(本書中の「情報プロダクト」に相当)よりも「優先することを強調し過ぎることに若干のリスクを感じる」(渡邊、90ページ)

・日本のアーカイブズ学におけるappraisalあるいは「評価選別」の今後(渡邊、90ページ)

————————————–

◎富永一也 『記録と史料』(27):2017.3
http://www.jsai.jp/kanko/kaisi/kaisi27.html

◎秋山淳子 『レコード・マネジメント』(72):2017.3
https://www.jstage.jst.go.jp/…/72/0/72_68/_article/-char/ja/

◎渡邊健 『GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報』(6):2017.2

◎山田敏史 専門図書館協議会『専門図書館』 (281):2017.1 http://www.jsla.or.jp/publication/bulletin/no281/

◎藤吉圭二 『アーカイブズ学研究 』日本アーカイブズ学会, (25):2016.12
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=188163&set_entry=000001&format=999

◎中島康比古 『情報の科学と技術』情報科学技術協会, (66):2016.11
https://www.jstage.jst.go.jp/…/66/11/66_…/_article/-char/ja/ http://doi.org/10.18919/jkg.66.11_601

◎石井昭紀 『情報管理』科学技術振興機構, Vol. 59 (2016) No. 7 p. 498
https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/7/59_498/_article/-char/ja/ http://doi.org/10.1241/johokanri.59.498

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『レコード・マネジメント・ハンドブック : 記録管理・アーカイブズ管理のための』 エリザベス・シェパード、ジェフリー・ヨー共著 【編・訳】森本祥子、平野泉、松崎裕子 【訳】清原和之、齋藤柳子、坂口貴弘、清水善仁、白川栄美、渡辺悦子

http://www.nichigai.co.jp/cgi-bin/nga_search.cgi?KIND=BOOK&ID=A2611

「ディスカバリー」をきっかけに考えたこと

12 木曜日 5月 2016

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Archivematica, Archon, AtoM, オープンソース, ディスカバリー, Calm, Discovery, 記述, 記述標準, ICA, ISAD(G), NRA, Omeka, TNA

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——————–

■TNAのディスカバリー・サービス導入

10年と少し前にビジネス・アーカイブズに関わる仕事を始めて以来、イギリス国立公文書館(TNA)のNRA(National Register of Archives、特にビジネス・レコード・インデックス)とアーカイブズ機関情報に関するARCHONディレクトリ、そしてアメリカ・アーキビスト協会(SAA)の企業団体アーカイブズ・ディレクトリは、私にとってずっと、ビジネス関連レコード/アーカイブズ(資料と機関)所在情報のデータベース化・組織化のベンチマークとなってきました。NRAに関しては、3年前に森本祥子氏による日本語文献が公刊されて、イギリスにおけるアーカイブズ所在情報組織化の歴史的な経緯の理解が格段に進んだと思います。その後国立公文書館の渡辺悦子氏によるイギリスでのアーカイブズ機関の連携に関する論文が公開され、TNAが管理する複数の検索システムやデータベースの統合による新たなサービス「ディスカバリー」の紹介も進みました。(TNAではディスカバリー・サービスの提供開始とともに、個々の検索サービスの提供は停止したため、以下ではウェブアーカイブズからのスナップショットを記載しておきます。)

【TNA: NRAディレクトリのスナップショット(2013年9月20日)】
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20130920012334/http://www.nationalarchives.gov.uk/nra/default.asp

【TNA: ARCHONディレクトリのスナップショット(2008年1月7日)】
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20080108014935/nationalarchives.gov.uk/archon/

【SAA: 北米における企業団体アーカイブズ機関ディレクトリ】
http://www2.archivists.org/groups/business-archives-section/directory-of-corporate-archives-in-the-united-states-and-canada-introduction#.VzKBh9KLTcs

【TNA: Historical Manuscripts Commission】
http://www.nationalarchives.gov.uk/archives-sector/hmc.htm


【Royal Commission on Historical Manuscripts(1869年設置)についての日本語文献】
ノーマン ジェイムズ. 森本 祥子. 翻訳. イギリスにおける民間アーカイブズ : その保存へのとりくみ. アーカイブズ学研究 / 日本アーカイブズ学会 編.. (19):2013.11. 70-87 ISSN 1349-578X
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=852174&set_entry=000001&format=999

【TNA: ディスカバリー】
http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-projects/discovery/

http://discovery.nationalarchives.gov.uk/

【TNAディスカバリーについての日本語文献】
渡辺 悦子. イギリス国立公文書館の連携事業. アーカイブズ / 国立公文書館 編.. (54):2014.10. 50-60 ISSN 1348-3307
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=853312&set_entry=000001&format=999
(本文PDF)
http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_54_p50.pdf


さらに、昨年(2015年)10月に福岡で開催された国際アーカイブズ評議会東アジア地域支部(EASTICA)総会・セミナーにはTNA商務・デジタル関係担当ディレクターのメアリー・グレッドヒル氏が参加、ディスカバリーに関する詳しい説明もありました。

【「英国国立公文書館におけるボーンデジタル記録管理の課題」】
メアリー・グレッドヒル(英国国立公文書館商務・デジタル関係担当ディレクター)
(要旨・本文PDF)
http://www.archives.go.jp/news/pdf/151106gledhill_ja.pdf
http://www.archives.go.jp/news/20151106.html

※関連文献として下記も上げておきたいです。
 齋藤歩(学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻博士後期課程)
 「アーカイブズのデジタル化がめざすもの」(2016年1月5日)
 http://www.ameet.jp/digital-archives/digital-archives_20160105/

TNAの2015年11月4日付ブログ記事によると、この時点でディスカバリーはTNAと英国国内2500のアーカイブズ機関が所蔵する記録に関する3,300万件の記述へのアクセスを提供しています。

【More comprehensive Discovery】
http://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/comprehensive-discovery/

TNAの新サービスを初めて耳にした当初(2012~3年頃)は、それはアーカイブズに関わる複数のデータベースを横断検索するシステムで、”Discovery”なる名称は単なる固有名詞だろうと素朴に受けとったものでした。しかし、どうももやもやしたものを感じたまま、「ディスカバリー」がずっと気になっていました。

 

■図書館界での「ウェブスケールディスカバリー」に触れて

そこで、思い立って手にとってみたのが『図書館を変える!ウェブスケールディスカバリー入門』です。これは大学図書館(佛教大学図書館)に勤務する著者が「ウェブスケールディスカバリー」と呼ばれるサービスを日本で初めて導入した事例を詳しく解説紹介した本です。

飯野勝則 著. 図書館を変える!ウェブスケールディスカバリー入門. ネットアドバンス ; 出版ニュース社 (発売), 2016.1. 270p ; ISBN 978-4-7852-0156-2 :
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=971079&set_entry=000001&format=040

http://www.amazon.co.jp/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%82%8B-%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E5%85%A5%E9%96%80-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E9%A3%AF%E9%87%8E%E5%8B%9D%E5%89%87/dp/4785201568

本書によると、図書館業界における「ディスカバリーサービス」とは、電子コンテンツが増大するなか、「紙」と「電子」の多様なコンテンツを一元的に管理し提供するために生まれた新しいOPAC、ということです。と言いつつ、TNAのディスカバリー(Discovery=常に大文字のDで始まる名称)と図書館界のディスカバリーサービスの関係は今一つはっきりとはしません。”資料利用者の利便性を高めるために、発達しつつあるテクノロジーを使って実現した、より高度な検索サービス”というほどの共通項なのかなぁ・・・と思いつつ本書をひも解いてみたところ、この問題とは別な部分に目が釘付けとなりました!

 

それは本書が「日本化」と呼ぶ取り組みです。「日本化」は本書のテーマそのものです。どう言うことかというと、ウェブスケールディスカバリーサービスを提供するベンダーは本書執筆時点では四つ、すべて海外のベンダーでした(OCLCのWorldCat Local、ProQuestのSummon、EBSCOのEBSCO Discovery Central、Ex LibrisのPrimo Central、同書35ページ)。佛教大学図書館ではこの4者のうち、ProQuestのSummonを日本で初めて導入、そしてローカラズ(日本化)=日本語に対応させることに取り組みました。(著者は日本化には二つの側面、一つはシステムの日本語化であり、もうひとつはコンテンツの日本化=すなわち日本語コンテンツを増やすことであると説明しています。同書99ページ)

一方、図書館のシステムはどうかというと、多くは国内ベンダーによって提供されているようです。例えば、ブログ「よしなしごと」(2016年1月11日)によると、国立大学法人26校の図書館システムのベンダーは2016年には、NTTデータ九州、富士通、NEC、リコー、日本事務機、丸善・京セラなどの国内企業です。

国立大学法人の図書館システム(2016)
http://otani0083.hatenablog.com/entry/2016/01/11/182900



■アーカイブズ機関の資料管理システム/ソフトウェア

翻ってアーカイブズに関わるシステムの状況はというと・・・。私が知るかぎり、日本国内の企業の資料室(アーカイブズ)で、アーカイブズ専用システム(ここで「専用」として念頭に置いているのは、アーカイブズの原理すなわち出所に基づく編成・記述という考え方を採用したものです)を利用しているという事例を耳にしたことはなく、図書館や博物館向けの資料管理システム、あるいは社史編纂のための年表作成ツールとして開発されたシステムを資料登録管理のために利用しているという例がほとんどです。エクセルやファイルメーカーといった汎用の表計算ソフトやデータベース・ソフトウエアで一から作り上げる、という方法をとっているところも多いと思います。

 

【イギリスの例:Calm】

そこで海外に目を向けるとどうでしょうか。イギリスの場合、アーカイブズ機関の多くが利用するAxiell ALM社提供のプロプライエタリなシステム、Calmがあります。自治体や大学アーカイブズに加え、イングランド銀行、HSBC、ガーディアン、マークス&スペンサー、ユニリーバ社、ウェルカム財団といった企業・団体アーカイブズでもCalmは利用されています。ユーザ機関は400を超えます。

Calmの特徴は ISAD (G)、EAD、EAC、ISAAR (CPF)、OAI-PMH、RDF、SPECTRUMといった国際標準に準拠したつくりになっており、アーカイブズ資料の持つさまざまな階層性をシステム上に再現し、コンテクスト情報を提供できる点にあります。画像ビュー、典拠ファイル(名称、場所、主題、事項、事件、期間)、主題シソーラス、貸し出し管理、修復状況管理、アクセス提供(CalmView)、アクセス権限管理、分類、検索、EADインポート/エクスポート、その他の機能を備えています。

(Axiell ALM社)
http://alm.axiell.com/solutions

(ユーザ一覧)
http://alm.axiell.com/customers/client-list?field_country_tid=17&field_collection_type_tid=All&field_product_tid=9&items_per_page=500

(Calmに関する説明:PDF)
http://alm.axiell.com/sites/default/files/Calm%20ALM.pdf

Calmを利用しているイギリスのアーカイブズ機関は非常に多いのですが、ロンドンの著名な銀行アーカイブズのアーキビストに直接聞いた話によると、同行アーカイブズではファイルメーカーを利用しているということでした。このようなアーカイブズはもちろん他にも存在するでしょう。

【韓国での取り組み:オープンソース・ソフトウェア】

韓国での記録管理学・アーカイブズ学教育の中心機関のひとつ、韓国国家記録研究院副院長であるイム・ジンヒ氏の講演(2014年6月21日、学習院大学にて)は、オープンソース・ソフトウェアを利用して民間アーカイブズを普及するという活動に関するものでした。わたしもこの講演会に参加しました。その講演内容は、学習院大学大学院アーカイブズ学専攻が発行する年報『GCAS Report』第4号(2015年2月28日発行)に全文収録されています。

任 眞嬉. 元 ナミ. 訳. 金 甫榮. 訳. 講演 韓国におけるオープンソース・ソフトウェア記録システムの普及活動 : 〈記録文化〉を浸透させるために. GCAS report = 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻研究年報 / 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻 編.. (4):2015. 6-22 ISSN 2186-8778
https://ndlopac.ndl.go.jp/F/?func=full-set-set&set_number=976026&set_entry=000001&format=999
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/g-hum/arch/02gcas-report.html

韓国では日本より10年早い1999年に公文書管理に関する法律「公共機関の記録物管理に関する法律」が制定され、これを嚆矢として公共部門における電子記録管理、アーカイブズ管理が飛躍的に進展したのでした。イム先生の講演によると、近年アーキビストたちは民間におけるアーカイブズ構築に着手し、その中でシステム構築の方向性が議論になったといいます。

「民間アーカイブズ(※)では、システムを構築するにあたって、さまざまな困難に直面していました。サーバーの確保やソフトウェア購入費用などは、民間アーカイブズにとって大きな負担でした。システムを構築するとしても、持続的に維持することが可能なのかという問題がありました。また、記録システムをまったく扱ったことのないアーキビストが、備えていなければならない機能要件を整理することは不可能でした。私は多くの民間アーカイブズをコンサルティングする中で、このようなシステムの問題の存在を知ることができました。

結局、私は2013年春、一つの決心をします。オープンソース・ソフトウェアを利用して記録システムを構築してみようということでした。そうすればまず、システムの構築費用は安くすむでしょう。そして、多くのアーカイブズが共通のオープンソース・ソフトウェアを使うことによって、技術的な問題を共同で解決していくことも可能となります。さらに、アーキビストたちがシステムを経験することによって、今後、高度なシステムを設計する能力を身につけることもできるでしょう。」(8ページ)

(※)ここで言う民間アーカイブズとは、欧米でcommunity archivesと呼ばれるようなものと考えられます。日本で「民間」というと企業なども含まれることが多いのですが、ここでは企業のアーカイブズは想定されていないようです。

イム先生たちは、記録の登録と記述のためには「AtoM」、長期保存には「Archivematica」、「基本目録の管理とオンライン展示のためには「Omeka」をオープンソース・ソフトウェアとして選びました(9ページ)。(AtoMに関しては後述)

 

■オープンソース・ソフトウェア

日本でもオープンソース・ソフトウェアの利用の試みの事例があります。2011年7月11日に開催された全史料協(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会)近畿部会のテーマは「オープンソースのアーカイブ資料管理情報システム:日本語化の取り組みと試用実践の一例」で、講師は京都大学研究資源アーカイブ・デジタルコレクションアーキビストの五島敏芳氏でした。最初に五島氏の講演があり、続いてワークショップ形式でオープンソース・ソフトウェア(Archon)を用いて実際に参加者が資料登録を行いました。
http://www.jsai.jp/iinkai/kinki/e20110702.html
http://togetter.com/li/974084

五島先生の講演でも触れられていたように、当時はArchonのほか、Archivists’Toolkit(AT)やICA-AtoMなどのオープンソース・ソフトウェアが利用可能でした。その後2013年の9月に、ArchonとATを統合し新たな機能を付加したArchivesSpaceがリリースされています。ArchivesSpaceはウェブ上の次世代アーカイブズ情報管理システムであり、紙・電子・紙と電子のハイブリッド状態での記録の収集・記述・編成、典拠と権利の管理、レファレンス・サービスのための機能を備えています。加えてオーサリング・ツールの機能では、EAD, MARCXML, MODS, Dublin Core, and METS 各フォーマットでメタデータを生成することもできます。
http://www.archivesspace.org/overview
http://archivesspace.org/programtimeline

一方、イム先生の講演で言及されていたAtoMは、もともとはユネスコの資金を得て、2005年から国際アーカイブズ評議会(ICA)がカナダのArtefactual社と共同で開発、無償で提供してきたアーカイブズの記述とその目録のオンライン公開用ソフトウェアです(多言語対応)。当初はICA-AtoMというブランド名でした。しかしその後Artefactual社は独自に開発を進め、ICA-AtoMとAtoMという二つのバージョンが併存する状況となりました。結局、2015年以降ICM-AtoMの開発・バージョンアップは停止し、現在はArtefactual社のAtoMのみが継続的に更新されています。AtoMはICAが定めたアーカイブズに関わる国際標準(ISAD(G)等)に完全に準拠したソフトウェアです。
http://www.ica.org/en/ica-statement-access-memory-atom-0
https://www.artefactual.com/ica-publishes-position-statement-on-atom/

■おわりに

ここまでややまとまりなく書いてきましたが、私がささやかながら主張したいことは、事業活動の証拠と組織の記憶の保存・継承・活用のためのアーカイブズ管理を支えるシステムやソフトウェアの開発がこれからもっともっと盛んになってほしい、ということです。その際、記録資料の特性を最もよく活かすような資料の組織化・公開を可能にするものが必要だろう、ということです。オープンソースでもよいですし、プロプライエタリのものでもよいです。使いやすく、安定したものがいいですね。場合によっては海外製品のローカライズ(日本化)であってもよいのでは。TNAのディスカバリーは3,300万件のアーカイブズ記述情報へのアクセスを提供しているそうです。記述情報(つまりメタデータ)のデジタルなシステムへの登録を増やし、アクセスの対象を広げるためにも、使いやすいシステムが必要であろう、と考えた次第です。

20140621gakushuin

 

 

画像

全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)全国大会出展ポスター

18 月曜日 11月 2013

2013年11月14~15日、学習院大学で開催された全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)全国大会ポスターセッションに出展したポスターです。

2011年に創立30周年を迎えた企業史料協議会の30周年以降の活動と、同協議会が編集にあたり2013年11月5日に刊行された『企業アーカイブズの理論と実践』のご案内を行いました。BAA用全史料協ポスター(A4原寸大)
(JPEG)

全史料協2013大会出展ポスター
(PDF)

投稿者: archivesstudio | Filed under BAA, JSAI

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